2009.09.26 田中信昭   

船旅の自由帳13〜海賊の話

本日9月26日(土)正午過ぎ本船はいよいよ「ソマリア海賊警戒水域」に突入した。

具体的にはアデン湾の入り口に当たるポイントBと名付けられた箇所から西側紅海入り口のポイントAと名付けられた所までの東西900km、地図で見ると、、、南側がまさしくソマリア、北側がオマーンからイエメン。この間に挟まれた海域が対象でアメリカからの要請に応じて日本の自衛隊も護衛艦「はるさめ」と「あまぎり」を出して警戒に当たっている。今まさに日没だが、今日のところは他の船の姿は今朝早くに一隻見たきり、対戦哨戒機P3Cもsh60kのヘリコプターの姿も見えない。年間2万隻の船がこの海域を通過するのだそうだ。既にお知らせしたとおり、ケニアから我々の船は大きく東に迂回して、ソマリアの東沖を通過することを避けたわけだが、ソマリアの東の海岸線は実に3300kmもあるとか。

これから通過する航路は、日本でいえば明治2年にスエズ運河が開通して、多くの明治の政治家や文豪たちも通ったルート。夏目漱石も森鴎外もそしてファンである寺田虎彦もここを通って地中海へ入った。こともあろうにそのメインルートに海賊がどうして?

(そこで船上で少々勉強した。水先案内人と称して何人かの知識人や芸能人が乗り込んでおり、その中の前田哲男さんという評論家が講演会を開いてくれて海賊の歴史から掘り起こしてくれた)

1)   海賊の歴史

小生の愛読書の一つ「ローマ人の物語」にも盛んに出てくるが、古代ローマ、ユリウス・カエサルの時代から地中海に海賊がいたというから海賊の歴史は古い。キャプテンキッドや小説「宝島」に出てくるシルバーも海賊だ。

2)   マラッカの海賊

「初めにスパイスありき」 11世紀、スパイスを求めて西欧の人たちがモルッカ諸島へやってきた、しかし陸伝いのルートでは12か所もの通関があり、ヨーロッパへ持って行った時には

こしょう=黄金の価格になっていた。安い流通ルートを求めてポルトガル人が喜望峰を回るルートで次第に進出、スペインは別ルートを開拓しようと西回りで、特にマゼランがマゼラン海峡を回って太平洋へ、散々苦労の末フィリピンのセブ島へ、マゼランは殺されたが、5隻で出発したうちの1隻「サンタマリア号」が無事香料を持って本国に帰りつき大もうけをしたー大航海時代―このあたりは学校の歴史で習った復習!

それに続く植民地時代―イギリス、オランダが割り込んで来るーインドネシア(オランダ領)

スマトラ(イギリス領)、フィリピン(スペイン領)

海賊の発生と定着―反植民地運動の結果、独立を目指した国の権力が及ばないところに海賊が発生、殆どが“半漁半賊“、組織的なシージャックも発生。2000年当時世界の海賊発生件数の半数がここで起きた。

3)   マラッカ海峡の海賊は制圧された

1990〜2000年頃はピースボートも両舷から高圧放水を行いながらこの海峡を通り抜けたという。その海賊が今は殆どなくなった。(2000年262件――>2009年2件) なぜか。

Police Sea Powerという方式が功を奏したという。周辺国であるシンガポール、マレーシア、インドネシアそれに日本が加わり、「多国間海上保安協力」が開始され、2004年には「アジア海賊対策地域協力協定」が結ばれ共同訓練や共同哨戒等を実施、2006年には「海賊情報センター」もできた。軍事力ではなく三国の同調と日本の海上保安庁の協力で達成できた!

4)   然らば「ソマリア海賊」とは何者か、対策は?

ソマリアは冷戦時代の代理戦争の場となり、その後も内戦が続き国家が疲弊、統治不能となった「破たん国家」。生活が成り立たなくなった漁師が海賊になった。漁業会社がそのまま漁船を使って海賊会社に衣替え、人質を取り身代金を要求する「海賊ビジネス」がまかり通る。

発生件数は2008年111件、2009年既に154件。これに対しアメリカは「対テロ対策」に乗っ取った軍事活動でこれを抑え込もうとし、日本もこれに歩調を合わせ「海賊対処法」なる新法をこの7月に作って、自衛隊の護衛艦第2次隊をこの地域に派遣、P3Cによる警備活動も実施されている。

実は今日の今日まで、「こういうことだから、護衛艦に守られて安心なことだ」と思っていた。

所が、年間2万隻の殆どが護送船団に入らないで単独航海しているのだそうで、本船も入っていないのだそうだ。何故? そもそも以前から船主協会や船員協会は海上自衛隊に不信感を抱いているという。海軍は我々を守ってくれなかった、我々は犠牲になった、と思っている船会社が多いとのこと。護送船団に入るために待たされ遅いスピードで航行せざるを得なくなり、それなら喜望峰回りでもあまり所要時間が変わらないなどと不満もあるという。良く分からない。それにしても、もし今にも海賊が攻めてきてフックの付いたロープかなんかを投げて甲板へ上がってきたらこの部屋辺り一番にやられてしまうなあ!? このクルーズで護衛船や対戦哨戒機に出会うことはあるのだろうか?後2日のアデン湾通過後まで多少不安、

「何故ソマリアではマラッカ方式ができないのだろう?」

そんなことはお構いなしに今夜は「芸達者祭」で盛り上がり、明日は「GETオリンピック」と称して英語のスクールで運動会をやる。

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