金星のリングが見たい!

今年の68日東京では、1411分18秒より日没まで、太陽・金星・地球が一直線に並び太陽の直径の1/30の黒い円が日面を経過していく。我が国では130年振りに見える天体現象である。
                     
タイトル:”金星の日面経過(クリック拡大)
                        (左より14:32、15:12、15:45、16:51撮影@礼文島)” 
            (追記)少年時代の夢実現のため、全国で唯一”晴れマーク”のあった
            最北の稚内・礼文島に行ってきました。全長1,300mm・合成焦点距離
            2,200mmの望遠カメラをかついで。14:12より日没の19:18まで、
            日本で最も長い金星過日を眺めたことになります。(写真ご参照)

JR桜木町駅を横浜方面に少し戻ると、みなとみらいから西へと向かう紅葉坂がある。その坂を250m程上ると現在改修中の「青少年センター」があり、その脇に菱形の“金星太陽面経過観測記念碑”がある。それには「明治7(1874)129日メキシコ観測隊(隊長フランシスコ・ディアス・コバルービアス)並びに日本水路寮の海軍中尉吉田重親らは野毛山および山手に於いて金星の太陽面経過の観測に成功した。ここに100年の記念日を迎え、神奈川県及び横浜市の協力を得てこの碑を建て後世に伝える」と書かれている。

桜木町から新橋まで陸蒸気が開通した翌々年の、まだ我が国が明治維新を終えたばかりの文明開化の真っ最中で、天文現象など良く分かっていない時代の話である。既に欧米では金星の日面経過を計算・予測し、その初めから終り迄が観察できる我が国に、フランス・アメリカ・メキシコより科学者が訪れて、横浜・神戸・長崎で観測が行われた。長崎は生憎と曇りであったが、横浜・神戸は写真撮影もでき、大成功であった。この観測の重要性、すなわち地球の観測地点による金星の接触時間の差より、太陽と地球の距離が求められることを指摘したのは、ハレー彗星で有名なイギリスのハレーで、彼は金星の日面経過を一度も見ないで亡くなったが、1874年の観測により、太陽〜地球の距離が、15千万kmであることが確認された。

9つある惑星の内、地球に金星が最も良く似ている。一例を上げると、金星の直径は地球の95%、質量は82%、太陽からの距離は72%、高濃度の大気もある。公転軌道の傾斜は、地球の黄道に対して3.4゚傾いているので、一直線にならぶ現象は、67日と129日頃に限られている。今回の次は201266日で、その次は21171211日である。

金星の大気圧は、90気圧で96%は炭酸ガス、窒素は3%である。金星の雲は、硫酸と硫黄分の微粒子からなり78%の太陽光が反射され、計算上では−46Cの表面温度となるが、炭酸ガスの温暖化効果により、これより523Cも高い、477Cが実測されている。

 地球については、もし大気が無かった場合、月と同じ−18Cであるが、炭酸ガス他の温室効果ガスにより、これより33Cも高い15Cと言う適温になっている。もし地球がもう少し小さければ、大気も無くなり、「水の惑星」では有り得なかったであろう。

 1990年より金星に送り込まれたアメリカの探査畿・マゼラン号による5年間の詳しい観測により、金星のクレータが月や水星のそれに比して極めて少ないことが判明した。検討の結果、8億年前に金星に激しい火山活動が起こり、それによって大規模な気候変動が引き起こされた可能性が浮かび上がってきた。45億年前、地球と同じように誕生した金星が、どうして地球と大きく異なる環境に変化したのか、今人類は炭酸ガス増加と言う恐ろしい実験を続けている。100年先にはどうなるか、金星の歴史から学ぶことは多いであろう。

 少年時代より50年間待ち望んできた、金星が日面経過する際、太陽の外郭に触れた瞬間に、背後の太陽光線が高濃度の大気により屈折し、金星の周りが金環日食のようにリング状に光る瞬間をぜひ望遠鏡で眺めて見たいと思っている。
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