Oakmont Golf Club

2003.5.6

 今年に入って、別にそれを意識して会うようにした結果ではないのだが、風早君と会う機会が増えた。 2月の中頃には健康科学研究所関連の仕事で会い、その帰りに四条河原町で飲んだ。 また、3月初めには彼の高校時代の同窓生と山崎蒸溜所を見学にやって来てくれた。 そして、今日は大手前高校の同窓生3人とで私をゴルフに誘ってくれる。 そして、この22日(木)には山本芳武さんを出汁に呑む会に参加をしてくれるので、そこでもまた顔を合わせるだろう。 在職中から比べると、格段の頻度である。

 

 <ご無沙汰しております。

 5月6日オークモント8:42スタート、セルフ、全込で8500円

お世話になった高校の連中で私と青山と田中公子。 ご一緒しませんか?>

こんなメールを風早君が寄せてくれたのは4月30日(水)の午後であった。 今年になって一度もゴルフをしていないので、いさゝか不安もあったが、喜んで参加するとの返信をしたのである。 青山さんと田中さんは3月に山崎蒸溜所へ見学に来られた時にお会いしているので、顔馴染みでもあった。

 T6:13にJR千里丘駅にて拾ってくれる事も、その後のメールで約束が出来た。 ゴルフと言えば、一番に気になるのが天候である。 30日の時点での天気予報では、<曇りのち雨>というもので、その翌日には確実に雨との予報であった。 大体、最近の天気予報では一週間後は大体少し前倒しになる事が多く、一抹の不安は残っていたが・・

 とにかく、3日からの3連休はまれに見る好天が続いた。 将に五月晴れ、しかも湿度が低く爽やかな日が続く。 その頃の予報でも、6日は<晴れのち午後から曇り>という予報が崩れておらず、どうやら今回のゴルフはまずまずのお天気になりそうである。 

 5月に入って、1日、3日、4日と蒸溜所への出勤が続いた。 この連休中は、セミナーや特別のイベントも無く、私は単に存在しておれば、後は全てSPSの皆さんがやってくれる。 事務所で新聞を読み、TVを見ながらモルツでも呑んでおれば、お金も頂けるのだから??? 連休中はさすがにお客さんも多く、特に家族連れ、男女ペアの二人連れが多く、観光バスのお客さんは殆ど来られなかった。 

 さすがに、一度もクラブを握ることなく本番に出るのは、少し引け目もあったので、3日、4日のお昼に、事務所の屋上で軽くボールを30球ばかり打ってみる。 だが、小さいケージの中なので、いい当たりをしているのかどうかは定かではなかった。 <まあ、これなら何とかあたるだろう>くらいの感触だけである。

 さすがに久方ぶりのゴルフであり、何を持って行けばいいのかさえ、迷うほどで、まあ何とか前夜にそれを整える。 後は、ちゃんと指定時間どおりの電車に遅れずに乗れるかどうかである。 JR山崎駅を5時57分発の電車に乗ればいいというのも、風早君がちゃんと調べてメールをくれていた。 それから逆算して、5時起床、6時40分に家を出ることにして、ウイスキーを片手に床へ着く。

 朝の目覚めは早い。 それは寄る年波のせいでもあるし、これまでずっと工場勤務が多かったせいでもある。 大阪工場時代は6時23分の電車に乗っていたから、大体、5時半には起床していたものである。 まして、好きなゴルフに行くのではないか、朝は早く目覚めて当然である。 自家製パン、紅茶、目玉焼きにタマネギと鮭缶のサラダがその日の朝食であった。

 ゴルフのクラブを右肩に、バッグを左手に家から山崎駅まで12〜3分の距離であるが、さすがにそれだけの荷物を持って歩くと、駅に着くと少し額に汗が滲んでいた。 さすがに5時50分頃という早朝であり、駅のホームも空いている。 向かい側のホームには見覚えの有る顔があった。 恐らく、その彼は東京へ出張するのではないだろうか? ガラガラの電車の座席に座り、15分もすると千里丘に着く。 

 <さて、千里丘で駅のどちら側だったかな? 確か、大阪に向かって左側だと記憶しているのだが・・>

最近は物忘れが酷い。 こんな事もメモをしておかないものだから、直ぐ曖昧になる。 

 <まあ、いいか、そこに居なければ反対側へ回れば済むことだし・・>

階段を下って駅の外に出ると、既に風早君の車が待っているのを見つける。

 「やあ、おはようさん、出迎え有難う!」

 「やあ、おはよう、そんなの気にせんでもいいよ」

 「今日は宜しく!」

クラブとバッグを後部トランクに入れ、私は助手席に乗り込んだ。

 「じゃあ、これから行くよ。 途中で田中さんを拾うので、場所は新森小路の辺りと聞いているから、少し寄り道をすることになるよ」

 「あゝ、そう。 どうぞ!」

Oakmont Golf Clubが何処に在るのかも知らない私は、どんな道筋を行っても問題は何も無い。 前夜、憲子に

 「明日は何処のゴルフ場なの? それは何処に在るの?」

と聞かれて、

 「名前はオークモントゴルフクラブ、場所は何処か良く知らない。 兵庫県にでも在るのと違うか?」

と、実にいい加減に答えていたのである。

 6日は朝からいいお天気に恵まれた。 <連休後の初日であり、少し車が多いのかもしれないなあ!>とそんな予感が二人には少し有った。 

 「今日はいいお天気になって良かったなあ!」

 「そう、いいお天気や! 1週間前の予報で少し天気が前倒しになるのではないかと心配してたけど、良かった。 まあ、降っても晩だろうと言っていたし」

 「田中さんちはどの辺りなの?」

 「うん、新森、昔は新森小路と言ってたようだけど、最近は<新森>と言うらしいよ」

 「どこで曲がるの?」

車は既に中央環状線に入っている。 

 「163号線の交差点、そこを右折すればいいらしい。 そして、163号線を大阪市内方向に走り、内環状線の交差点を今度も右折。 直ぐの道を左折したらいいらしいよ」

<松生町>という表示のある信号がその163号線の交差点であった。 尤も、そこの交差点はT字路になっていて、右折か左折しか出来ない。 右折をし、163号線を大阪市内へと向かう。 その頃になると、さすがに車の数も多い。 時計はもう6時40分に近かった。 

 「あの交差点が内環状線との交差点だろう、あそこを右折か?」

 「うん、そうやろう。 <緑1>とか書いてあると思うよ」

 「あゝ、そう書いてあるよ」

そこを右折し、??鍍金の横の細い道を左折する。 すると、前方に何だか女性の姿が小さく見えた。

 「あそこにいるのが田中さんと違うかな?」

向こうの女性もこちらの車を見つけたようで、手を振っている。 風早君はその女性の前で車を止めた。

 「やはり、田中さんだったか! おはよう!」

 「おはようございます、お出迎え済みません」

 「おはようございます、いつぞやは懇親会まで顔を出し、失礼しました」

 「いえ、こちらこそ、本当に美味しい貴重なウイスキーを頂き、有難うございました。 

あれは本当に美味しかったですね。 私でもあの美味しさは判りましたよ」

とは、田中さんである。 田中さんとは一度お会いしただけで、その時は私もよく呑んでいたので、記憶が曖昧になっていた。 もう少し大柄で、ふっくらとしているような記憶だったのだが、小柄でほっそりとした田中さんであった。

 田中さんの荷物を積み込み、田中さんは後部座席に私は助手席に乗り込むと、車が発進した。 来た163号線を東へ、四条畷方面へと向かって走り出したのである。 

 「窓を少し開けたけど、田中さん、寒くない?」

 「いいえ、丁度いいですよ。 そのまゝ少し開けておいて下さいよ」

 「この車のウインドウは紫外線カットになっているんだよ」

 「へえ〜、そうなの、何か貼るか塗るかしてあるんですね」

あちこちへ話題が飛びながら会話が弾んでいる。 

 「今日はどの道を走るのですか?」

 「高速を使おうかとも思ったけど、そんなに急ぐ事も無いので、地道を走るつもり」

 「これからだと四条畷へ出て、それからは?」

 「その少し先で右に曲がって、168号線を南へ下がる。 その道が緑に囲まれ、なかなかいいんよ! 僕の好きな道や」

 「じゃあ、その先で阪奈道路に出るのね」

田中さんがそう言うと、

 「そうや、よう知ってはるね」

そこで、私も大体気が付いた。 <ひょっとすると、その道は磐船街道では?>と思った。

 「この先のあの煙突の煙、あれが気になっているねん」

四条畷の街中を少し過ぎた上り坂の所で、風早君が言う。

 「あそこの金属会社の煙突と違うかなと思うし、少し変な臭いも感じるからな。 だって、変な臭い、人間の嫌いな臭いは、何か意味があるというか、良くない事を感じさせる為に神様がそんな臭いを付けているのと違うか?」

 「この辺りに霊園があるから、あれは焼き場の煙では?」

 「最近の焼き場の煙突からは殆ど煙も出ないのと違いますか? 完全燃焼するように設計されていると思いますよ。 臭い匂いは確かにその警報とも言えそうやなあ」

 「この先の霊園には内の親父たちの墓が有るから、時々は供養に来るよ。 田中さんとこは、お墓はどうするの?」

 「私も二人姉妹なので、もう一代限りよね。 それで、今の両親の墓はこれから誰が面倒を見ていく事になるのか、ちょっと判らないわ」

 「それもそうやね、私も墓は別に必要ないとも思うし、私の骨も散骨して貰うかなあとも思っているよ。 宇高連絡船によく乗っていたので、瀬戸内海にでも散骨してもらったらいいよ」

 「何でそんなに宇高連絡船に乗ってたんですか?」

 「そうやねえ、小学校の2年生の頃には一人で、大阪から高松まで行ってたよ。 11時頃の夜行に乗って、宇高連絡船に乗るのは4時か5時ごろだったかなあ? 列車から降りて、走って船に乗ってたね」

 「そんなに小さいのに、一人で?」

 「うん、別にそんなことは何も気にしてなかったように思うよ」

 「私も小学校から電車通学していたけど」

 「汽車に乗ったら、風景の動くのが楽しくて、少しも退屈しなかったしね」

 狭い道、細い道、間道を縫いながら風早君が運転する車は、右へ曲がり、左へ曲がりと進んでいく。

 「正面の神社は何と言う神社なの?」

突き当たりの鳥居を見つけた私が問う。

 「さあ、なに神社だろう? 良く知らない。 この辺りの土地の名前とか、固有名詞は殆ど読めないよ。 恐らく、平城京の頃に朝鮮や中国から来た人が多かったから、向こうの文字での名前が多いのだろうね」

 「あれはきっと、<わにしも(和爾下)神社>と読むのと違うか?」

 「う〜ん、そう言われると、そう読むのが正しいかもしれんな」

 「あの小学校の名前は何と読むのでしょうね?」

と、今度は田中さんである。 

 「あれはきっと、<いちもと(櫟本)小学校>と違いますかねえ」

 「ところで、<くだらない!>という言葉も、ひょっとしたら差別用語なんかねえ?」

また、意外な言葉が風早君から出た。 <くだらない=百済無い>という指摘である。

 「さあ、どうかなあ? <くだらない=下らない>ではないのか?」

 「でも、<くだらない>はいい表現ではなく、良くないという表現だろう。 そしたら

<下らない=下がらない>だからいい表現になるから、それとは違うだろう」

車の中では変な会話が盛んに出る。 

 帰り着いて、広辞苑を繙といて見ると、

 <下らない=下らぬ>:<読みが下らぬ>、或いは<理屈が下らぬ>の略か? つまらない、価値が無い、取るに足らない。 

と、あった。 どうやら、百済とは関係が無いようである。

 「これからは、ちょっと細い道を行くから、対向車とのすれ違いが少し厄介なんだ。 今日は助手席の人がいるから、左側が安心出来るので、運転がし易いよ」

風早君はそう言いながらも、少し時間が気に掛かり始めた。

 「今、何時かな? そうか、もう7時50分か。 これじゃあ、予約時間にはちょっと無理かなあ? ゴルフクラブに電話を入れるよ」

携帯電話を操作していたが、

 「未だ、駄目のようだよ。 予約が8時からだから、電話の応対に出てくれない」

 「でも、もうゴルフ場の人は出勤してるだろうに」

ついでに、青山さんへも電話を入れていたが、

 「こっちも駄目だよ。 何故か、電源が入っていないとの返事が戻るよ」

それから、もう暫くしてゴルフ場へ再度電話を入れ、スタート時間を9時頃に遅らせてもらうことが出来たようである。

 「それにしても、風早さん、こんな細い道を良く知ってはるわねえ」

 「そりゃあ、そうでしょう。 もう何十回とオークモントへ行っているのだから、その帰りは時間が有るから、色々と早く帰れる道を探してウロウロするからね」

確かに、風早君は道を良く知っている。 <この二つ先の右折で渋滞するから、左側に寄っておこう!>とか、<この前の車、わしやったら直ぐに脇に寄ってやるのに!>とか、色々と呟きながら、なかなかスピードを出すのが好き、いや、運転が上手い!

 やがて、車は天理から25号線に入る。 少しずつ街中を離れ、段々と坂道を登り始める。 それにつれ、車窓の風景も変化を見せ始めた。

 「山の緑が、新緑が美しいですね! あの紫色の花は藤かしら?」

25号線とも別れ、益々、道は曲がりくねった山道へと入っていく。 

 「この間、田中さんに送ったメールの写真、前に貰っていたの?」

 「どの写真?」

 「ほらっ、あの<田中さんがうっとりとして、日本酒のグラスを傾けているやつ>よ」

 「あの写真、なんだか嫌だったわ! あれ、誰が撮ったの? 私があんな格好をして飲んでいたの?」

 「そうだよ、グラスを持って、少し小指を挙げてさ、何だか悩ましかったよ!」

 「でも、最近になって、お酒が美味しくなって来たような気がしてるの。 前はそんな気もしなかったのに」

もう、ゴルフ場が近いと察しられた。

 「この両側は桜の木ね、咲いていたら綺麗でしょうね」

 「そう、でも未だ木が細いよ。 あと、10年もしたら、もっと太くなって、立派な木になり、それこそ綺麗な桜の花が咲くと思うよ」

 連休明け、さすがに駐車場には車が少ない。 玄関でバッグとクラブを下ろし、我々二人はクラブハウスへ。 風早君は駐車場へ車を止めに行く。 2階まで吹き抜けのロビー、人影は少ない。 そこへ長身・痩躯の男性が姿を見せた。 それは一緒にプレーする青山さんである。

 「おはようございます」

 「やあ、おはようございます。 先日は山崎まで、有難うございました」

 「いや、その節はお世話になりました」

 「こちらこそ、今日は宜しくお願い致します」

と、そんな会話を交わしていると、風早君が駐車場からやって来て、

 「おう、すまん、すまん! ちょっと、道路が混んでてね、それで着くのが遅くなったよ。 スタート時間を9時頃にするようには、クラブに連絡を入れておいたけど。 聞いているか?」

 ロッカーで着替えを済まし、ハウスの外に出ると青山さんが居て、

 「今、風早君がスタートの順取りに先に行きましたよ」

と、そこへ田中さんもやって来た。 3人で揃って、風早君が待つSouth Courseへ向かう。

そこでスタート順の籤を引き、風早君、青山さん、私、それから田中さんと決まる。 田中さんは女性だからレディース・ティーなのだが、皆は

<そんな事をしなくてもいいよ、この白のティーからやろうよ!>

と言い、それを田中さんは渋々、呑んだ。 だが、その日の結果を見ると、それだけの実力が有ったと、私は思う。

 <なぜ、こんなにウイスキーの水割りが美味いのだろう!>

呑みながら、この文章を綴っていると、つい、呑む量が過ぎる。 

 私の最初のT−ショット、それはあまりに上手く行きすぎた。 

 「おい、俵よ、お前そんなに上手かったのか?」

風早君の鋭い突っ込みが来た。 

<そんな事、知るか! 偶々、上手くいっただけや!>

とは、思いながら、気分上々のスタートである。 2ndも首尾よく行き、見事にツーオンである。 そして、最初から見事にパーセーブをする。 それにしても、上出来のすたーとを切った。 だが、その直後に、そのどんでん返しが待っていた。 

 2番ホールの第3打がバンカーに捕まり、何せバンカーから出ない、出たかと思うと反対側のバンカー、

 「次は10打、そして11打」

丁寧に風早君が数えてくれている。 こちらはもう既に頭に来ていて、やっと、12打にしてグリーンに乗った。 救いは、辛うじてワンパットで入った事だけである。 この悪夢は暫く尾を引く。 6番ホールまでは、良くて6打、悪いと9打も打ったのである。

 さすがに青山さんは上手い。 我々、残りの3人とはドライバーの当たりが違っていて、飛距離も4〜50ヤードは離される感じである。 むろん、我々も時々は会心の当たりがあるが、

 「なあ、俵君よ、我々は良いのは時々、良いのと悪いのが交互やけど、青山君のは違うよ。 ドライバーがコンスタントに真っ直ぐ飛んでるよ!」

風早君の言は、的確に当たっているから、悔しいではないか! 田中さんは時には、チョロもあるが、ボールが真っ直ぐ飛んでいて曲がらないから、大崩れが無い。 前半を終ってみると、青山さんが40と抜群のスコア。 風早君が53、田中さんが59、そして、私はなんと61という最悪のスコアであった。

 9時過ぎにスタートして、前半を上って来た時は11時30分過ぎであった。 その頃になると、陽射しが無くなり、空は薄雲に覆われ始めていた。 この日のグリーンフィーは格安の3,000円。 それで、昼食付きだと言う。 むろん、飲物は別である。

 「さあ、何にするの? 俵はむろんビールを飲むだろう?」

 「うん、むろん、呑むよ。 青山さんは?」

 「私はお酒が呑めないのですよ」

 「そうなんだよね、じゃあ、僕もモルツの中ジョッキ」

 「じゃあ、僕も中ジョッキ」

 「田中さんはまだ来ていないけど、彼女も呑むから、小さいピルスナーかな?」

風早君が勝手に田中さんのビールも注文している。 

 「じゃあ、私はこの<皿うどん>をお願いします」

と、青山さん。

 「僕はビーフカレー、ただし御飯は少なくしてくれますか?」

と、私が注文する。 風早君は別の品物を指差している。 そして、ビールのツマミにゴボウの揚げ物と鯵の甘露煮をワゴンから取り出した。 後からやって来た田中さんは、

 「私は<皿うどん>にしてくれますか」

皆の注文が終わり、賑やかなお昼の歓談が始まる。 

 話題の中心はやはりゴルフのルールや同窓生とのコンペの話であった。 

「ティーグランドで素振りをしたら、ヘッドが触れて球が転がったら、罰打が付くのかい?」

 「それは打つ意志が無かったから、無罰じゃないの」

 「じゃあ、フェアウエーで打とうとスイングしたら、風か何かで球が動いて、それを打ってしまったら、どうなるの?」

 「う〜ん、それは動いた球を打った事になるから、罰打が付くのじゃないの?」

 「でも、止まっている球を打とうとしてクラブを振り上げて、打ち下ろす瞬間に吹いた風で動いただけだよ。 風だから不可抗力だよ、それでも罰打かい?」

 「そうやなあ、でも動いたボールを打ったのだから、罰打だろうね」

この場合、<アドレス後に動いた球を打ったから、やはり1罰打>というのがルールのようである。 ゴルフルールは知っているようでもあるが、実に曖昧に理解している部分も多い。 即ち、いい加減なルール解釈でプレーをしているのである。 

 「ところで、今度のコンペの優勝候補は誰かなあ?」

 「誰でしょうね? 青山さんかな?」

 「いや、そうじゃないよ。 ・・さんと違うかな?」

 「でも、青山さんはドライバーが安定してきたから、やっぱり本命の一人だよ」

 午前中はWESTコースであったが、午後からはSOUTHコースとなる。 午後のスタートは12時15分頃であった。 太陽は隠れ、連休前から続いた春の暖かい陽射しは無い。 どうやら、天候は予報通りに展開しているようである。 この日のゴルフはセルフカートでのプレーである。 それ程、後ろから終れるようなプレーではなかったが、一度だけ我々がグリーンでプレーをしようとした時、打ち込まれた事があった。 さすがに、そのボールを打ち込んできた後ろのプレーヤーは頻りに頭を下げて誤っていたが、まあ、それは当然であろう。 

 「お昼に飲んだビールが効いたのかしら? スタートから目茶苦茶なスコアになってしまったわ!」

田中さんは嘆きで後半のホールを9打でスタートとなる。 風早君と私はボギーで、青山さんはダブルボギーでのスタートとなる。 そして、私はパットが1打で入り、その日初めての金メダルを取っていた。

 この日はオリンピックという賭けをしてプレーをしていた。 グリーン上で金、銀、銅、鉄のメダルを争うのである。 むろん、チップインならダイアモンドである。 その賭けでの前半は私と田中さんがマイナス2ずつであった。 後半に入って、何故か私のパットは冴え始めた。 とにかく、ワンパットで入るのだから、前半の負けを大きく取り戻す。 そして、成績も良くなる。 青山さんは相変らずショットは快調であるが、パットだけが入らずショートするのである。 

 「風早はパットの前に一言多いんだよね。 それで、こちらの気持ちが揺れてパットが入らなくなるよ。 でも、憎めないんだよね、風早は。 彼とプレーしていると、ゴルフは実に楽しいよ!」

青山さんはそんな事も言っている。 その風早君も私に煽られたのか、後半は少し乱れた。

 最終ホールで、青山さんと田中さんが奮起した。 いずれも長いパットを1打で捻じ込んだ。 青山さんは金メダル、田中さんが銀メダルでホールアウトをする。 風早君と私はそれぞれ銅と鉄を逃がして、競技の全てが終った。 その日の成績は、

青山さん  40+44= 84

風早さん  53+56=109

田中さん  59+57=116

俵     61+48=109

と、こんな結果になる。 今年初めてのゴルフにしては、まあこんなものか? 時計を見ると、3時に近かったが、雨には合わなかったし、汗もかかず気持ちの良い一日になる。 大浴場の湯に浸かり、いさゝかの汚れと疲れを癒す。 

 「ちょっと、食堂でコーヒーでも飲みながら二人を待ちましょう」

先に風呂を上り、青山さんと二人で食堂のテーブルに着く。 飲まない青山さんはアイスコーヒー、私はむろん、モルツの中ジョッキである。 

 「俵さんもよく飛びますけど、もう少しスイングを体の軸を回転させるというか、回すようにされるといいと思いますよ。 今はどちらかというと、下に叩きつける感じで打たれているように思います。 スイングの時に左足へ体重を移して、身体を回すようにして、クラブを振り切る。 すると、却ってボールは真っ直ぐに飛ぶし、飛距離も出ますよ」

飲みながら、青山さんのアドバイスである。 

 「確かに、綺麗にスイングが出来て上手く打てた時には、力が入っていないようでありながら、距離は出ている気がしますね」

この<振り切る>ということが出来ないのが私の欠点であると、最近、気付き始めている。それはゴルフではなく、テニスのスイングが将にそれで、特にフォアで打つ時に打球が安定しないのである。 ラケットを振り切れず、左足への体重移動も出来ていないのである。 

 やがて、風早君、田中さんも風呂から上ってきた。 

 「じゃあ、僕は<ファイン・ブルー>を下さい」

 「私はアイスコーヒーをお願いします」

風早君と田中さんがそれぞれに注文をする。 

 「どうもお疲れさんでした」

 「いや、お天気もまずまずだし、青山さんの素晴らしい成績は別にして、我々はもう一つでしたが、今日のゴルフはなかなか楽しかったですね」

 「ほんとにそうでした、少し足を引っ張りましたが、どうも有難うございました」

 「そうそう、オリンピックの精算をしないとあかんね」

風早君がそう言いながら、ポケットからスコアカードを取り出し、計算をし始めた。 

 「今日のオリンピックは俵君の11点勝ち。 それでこの飲物を奢ってもらう。 不足分は我々が負担しましょう」

 「あゝいいですよ、皆さんにモルツを奢ってもらったのだから、言うことは有りません」

 その日の費用はビール代も含めて7,962円という安さであった。 これは60歳以上の老人割引もあるらしい。 

 「どうも今日は有難うございました、また、ご一緒させて下さい}

ゴルフ場で青山さんと別れ、我々3人は風早君が運転する車で新森から千里丘へと戻る。 

帰りは天理から名阪に乗り、長原で降りる。 そして、山崎からはタクシーで家に戻った。

思いがけない今年初めてのゴルフがこうして終る。

                              − 完 −
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