「晩秋の上高地を行く
             ー黄金色に輝く唐松の黄葉と穂高連峰の初冠雪ー」
                                                       鈴木順子

 「48時間上高地3日間」というJTB旅物語の企画を利用し晩秋の上高地を歩こうということになり、10月28-30日、上高地へのバスツアーに男性4名女性7名計11名が参加しました。  上高地は、北アルプスの南部に位置し、3000m級の穂高連峰や霞沢岳(2646m)焼岳(2455m)など高山に囲まれた、標高約1500mの、梓川流域に広がる細長い地域です。好天に恵まれれば美しい山岳の眺めが期待されました。
 前日までぐずついていた天候が、出発の日の朝には素晴らしい秋晴れとなっていました。

<第1日>  28日の朝8時に梅田のバスセンターを出発、乗客は我々11名と他の12名とで計23名、添乗員1名とで座席には余裕があり、ゆったりしたバス旅行となりました。上高地まで約6時間、名神高速道路・東海北陸自動車道・158号線と今年7月の乗鞍行きの時とほぼ同じ経路でした。
 滋賀県北部では伊吹山の美しい姿を眺めることが出来ました。岐阜県一の宮から東海自動車道に入り、トンネルをいくつも潜り(計56ものトンネルでした)少しずつ標高が高まるに従い車窓に広がる山々の色づきが美しくなっていき、だんだん山全体が黄金色に紅葉している姿に「うわーきれい」の声が何回も上がりました。長い安房トンネル、そして釜トンネルを越えれば長野県、上高地です。トンネルをぬけると正面に焼岳が真近にくっきりと迫力をもって姿を現しました。バスが方向を変えやがて大正池が見えてきたところで下車しました。途中で道路が混雑することもなく予定より早めの午後2時15分頃到着しましたので、30日の午後2時15分に帰りのバスが上高地を出発するまでの48時間が上高地での自由時間となりました。大きな荷物はバスがホテルまで届けてくれることになっていましたので、リュックだけで大正池周辺を散策しました。
 バスを降りた大正池は、大正4年焼岳の大噴火により梓川が塞き止められてできた池で、立ち枯れした木も見られました。水は透明に澄んで青く見え、美しい水にマガモが優雅に泳いでいました。山肌は緑と黄色が入りまざり、白い石の湖畔に唐松の黄葉が陽射しを受けて黄金色に輝くさまは言葉に出来ぬほどの美しさでした。河原の気持ちよさを身体いっぱいに感じながらを歩いていくと、2頭のニホンザルが、道の真ん中に人が近づいても素知らぬ顔でくつろいでいました。やがて静かな神秘的な田代池へ向かいます。田代池は、霞沢岳の砂礫層を通って湧き出してくる伏流水により養われている池だということですが、周囲から流れ込む砂や枯れた水草などが池の底に埋まりだんだん浅くなりやがて湿原となっていくということでした。シラビソなどの林をしばらく歩き、林を抜けると梓川沿いの道に出ます。標高1500mの上高地は寒いだろうと予想していましたが、風もなく日射しが暖く感じられました。梓川沿いをゆっくり散策し、ケショウヤナギやナナカマドの 赤い実など眺めながら、宿泊の上高地アルペンホテルに入ったのは4時半頃だったでしょうか。
 ゆっくりお風呂に入り6時の夕食、伝統野菜を使った前菜、岩魚のチーズ味噌田楽、安曇野こだわり豆腐のお鍋など美味しく頂いた後、7時半からミーテイングをしました。唐松の黄葉の一番美しい時期にタイミングよく来合わせたことに対し、皆の喜びの気持が語られました。そして明日は徳本峠に登ることになりました。昭和8年梓川沿いに道路が開通するまでは、信州から上高地に入るには島々谷から徳本峠を越える路しかなかったわけで、歴史のある峠です。
山の稜線の奥に白山が見えます    大正池の向こうに穂高連峰が  焼岳が美しい 
   
穂高連峰の正面が岳沢です  田代池近くにて  落葉松が美しい   

<第2日>  8時に出発。朝はよく晴れていました。河童橋から日射しに輝く穂高連峰を眺め、記念撮影などしてか ら梓川に沿って明神へ、そして徳本峠へ向かいました。明神から徳本峠まで3.9km、標高差は約600mです。最初はなだらかなよい道で、落葉の積もった樹林の中でしたが、徐々に急な斜面となっていきました。沢を何度も渡りました。大きい沢には丁寧に作られた橋が架けられていました。山川さんが水場でポットに水を汲んで下さり、美味しい水を飲ませていただいたりもしながら登っていきました。先導役の山内さんはとても元気で、余り休憩も取らずどんどん登られ、やっとの思いでついていきました。長く感じた3.9kmでしたが、お昼前には徳本峠小屋に着くことが出来ました。
 徳本峠から穂高連峰を正面に眺めながら、昼食のおにぎりを食べました。標高が高い(2135m)ため 気温は低くウインドヤッケを重ね着ましたが30分くらいで寒く感じられてきました。森本さんら何人か がポットにお湯を持参され、暖いコーヒー・ココアを入れて配られほっとした気持で頂きました。西川さ んは新鮮なリンゴを切って配って下さり美味しく頂きました。こんなとき何が有難いかがわかっている経 験者の配慮を感じました。やがて山にガスがかかり、急いで下り始める頃には小雨も降り出しました。空は比較的明るかったので大した降りにはなるまいと考え、上着を雨具にしたくらいで、下りていきました。道は濡れると滑りやすく、登るときには気にならなかった細い道や滑り落ちそうなところもあり、明神まで下り着いたときにはほっとしました。
 休憩できるお店があり暖いコーヒーを飲だりストーブで温まったりしましたが、その時になってリュッ クなどがずぶぬれであることに気づきました。せっかく雨具をいろいろ持参しながら出して用いることをしなかったことを後悔しながらホテルに向かいました。朝には晴れてくっきり見えていた山の景色が、霧がかかっ て幻想的な美しさを呈していました。あと少しと思った明神から上高地アルペンホテルまでの距離が、結構時間がかかり、着くころには薄暗くなっていました。バスの添乗員の湯浅さんが、我々の帰りが遅いことを心配してホテルから見に来て下さっていました。
 予想外に早く到来したこの日の雨は、山を知るよい機会となりました。今日は思ったよりずっと大変なコー スでしたし、雨を甘く見てずぶぬれとなり、リュックの中味を部屋いっぱいに広げて乾かす羽目になりま した。お風呂で疲れた脚を揉んだり、濡れた髪を洗ったりして、夕食時間を30分遅らせてもらいました。 ホテルの夕食は、馬刺や岩魚の塩焼などこの日も大ご馳走でした。  この日は、皆が大変疲れ、ミーテイングも手短に終えました。明日は岳沢に、下から眺めて白く線状に見えるところを登れるところまで行ってみようということになりました。
市来君と鈴木さんは何を?  アルペンホテル前  これから徳本峠へ  河童橋の先に焼岳 
明神小屋  徳本への途中で正面は明神岳    徳本小屋 

<第3日>  朝、ホテルの窓から、穂高の岩壁が白く雪で覆われているのに気づきました。昨日の雨が雪になったの でした。黄葉に初冠雪が見られるとは何とラッキーナのでしょう。  この日も晴れ。出発は8時です。まずは河童橋から初冠雪の穂高連峰を感激を持って眺め、記念撮影などした後、すぐに岳沢方面へ向かいました。巨木や倒木を見ながら原生林の中を歩き、木道の敷かれた湿原を通り登山道に入りました。大きな石のある、かなり傾斜のある登り坂でしたが頑張って登り、10時半頃でしょうか、やっと白い石のごろごろしたところに出ました。下から白く線状に見えていたところです。白い石の上に出ると、穂高がぐんと近く見えました。少しでも高くへ、また少しでも近くに穂高を見たい、と石の上を這うようにして進み、石の上に腰をおろしました。思えば、昨年夏に登った御岳山から、遥か遠くにその姿を見た穂高連峰がこんなに近く、目の前に迫っているのでした。そして遥か向こうには乗鞍岳の稜線も見えたのでした。風穴と言われるところの少し上で、下から眺めて白く線状に見えていたところの下から3分の1くらいのところ、標高1800m位まで登ったことになるそうです。ゆっくり山を眺めていたいと思いましたが、バスの時間もあり急いで下りることになりました。石の上から足を踏み外さないように気をつけながら、どんどん下りました。そして、11時半頃には、上高地アルペンホテルへ戻りました。  2-3軒先のレストランで昼食をとり、後は、上高地ビジターセンタへ寄るのがやっとでした。興味深い上高地の映像をゆっくり見ている時間はありませんでしたが、ケショウヤナギの写真が解説付きで展示されているのを見ることが出来ました。  時間通り2時10分には全員バスターミナルに揃い、上高地を後にしました。帰りのバスは往きと同じ 道をたどります。紅葉の美しい山々を通り過ぎるのを窓から眺めていると、上高地を出てすぐに、山が崩 れ大きく地肌を出しているところがあるのを目にしました。最近大雨で地崩れが日本各地で起こっており ますが、上高地の辺りではこのようなことはしばしば起こるのかも知れません。
 大正4年に焼岳の噴火で梓川が塞き止められて大正池が出来、今も焼岳や梓川より流れ込む土砂で埋ま り続けていること、田代池も昭和50年夏の大雨で大量の土砂が流れ込み、池の半分が埋まったこと、梓 川は10年か20年に1回氾濫し流路を大きく変えその度にそれまでの森林が押し流され新たな河原ができること、その河原に最初に入り込むのがケショウヤナギであること、ケショウヤナギは氾濫により自らの林が壊されることによって、林が生まれ変わり存続していることなど、自然の営みは興味深くもあり、また考えさせられるものでもあります。
 河童橋附近の河床が上昇しており、梓川が氾濫して旅館が浸水するのを防ぐため、梓川本流を横断する 帯工を進められようとしていること、しかしそれにより梓川の自然な姿は失われてしまうので、自然を守 ろうと反対する考えもあるとのことです。私達も第2日目に、明神から徳本峠へいく途中、川底の砂が川岸に積み上げられているのを目にしました。上高地では、ケショウヤナギはしばらく洪水がないと、ハルニレやサワグルミ・ドロノキなどの森林に移行していくこと、さらに時間が経つとシラビソやウラモミジの林に変わっていくと考えられていること、したがって堤防などつくって梓川の氾濫を押さえ込むとケショウヤナギやハルニレの森林は滅びてしまう恐れがあるということです。森林の中を歩きながら、巨木に目を見張り、たくさんの倒木が自然に朽ちていく様子も見ました。そして朽ちた木の上に育ち始めている実生の小さな木もあり、樹木の世代交代の様子を観察することもできました。上高地の美しい自然を眺めながら、自然が生きていること、変化していることを改めて感じ、その中で生きている人間との関係についても考えさせられました。  帰りのバスも渋滞に巻き込まれることなく、30日午後7時半には大阪JR西口に着くことが出来、それぞれ 家路につきました。
 夢のような3日間があっという間に終わってしまいました。上高地でまだまだ見るべきものは残ってい ますでしょうが、48時間という短時間に、上高地のどこを案内しようかと山川さんが熟慮の末、選んで 下さった大正池・田代池、徳本峠、岳沢を心から楽しませて頂きました。最も美しい時期の唐松の黄葉を 見られたこと、よく晴れた日の山岳の美しい姿を見られたこと、穂高連峰の初冠雪まで見られたことなど、 心に深く残る上高地行きでした。

この後雨が降り始めました  三日目の朝  これから岳沢を登ります  山に雪が被りました 
1800mまで登りました  上高地を見降ろして  降る途中での美観  岳沢湿原 
 
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